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思い出の列車を残したい。
老舗釣針屋四代目の想い。有限会社アサヒ針村上 裕治郎さん(むらかみ ゆうじろう)
村上 雄三さん(むらかみ ゆうぞう)アサヒ針は、2023年で創業100年を迎えた老舗の釣針会社。農家をしていた初代が、冬場の商いとして選んだのが針づくりだったそう。でも、なぜ海から離れた山間部の西脇で針づくりを…?じつは、潮風の当たらない山間部のほうが針づくりには適しているんだとか。
歴史ある釣針会社を二人三脚で経営する双子の兄弟、村上裕治郎さん(兄)と村上雄三さん(弟)にお話を伺いました。
アサヒ針では、どんな針を作っているのですか?
裕治郎さん(兄):うちは昔から、漁師さんが使う大型の魚類専門の釣針を作っています。大手メーカーさんは機械で作るんですけど、大きい針は手で一本一本作るしかない。だから大手メーカーさんは大きい針は作ってないんですよ。
雄三さん(弟):うちはトローリング用とかカツオの一本釣り用の針も作っているんですけど、この2つに関しては、いま日本で作っているのはうちともう1社しかありません。
家業を継ごうと思ったきっかけは?
裕治郎さん:僕は大学生の頃くらいから自然に…という感じです。この仕事を見て育ったので、いつかは自分もやるんかなぁ、と思っていました。先代や二代目から継いでほしいというようなことは、言われませんでしたね。
雄三さん:僕も同じです。僕は大学卒業後、この仕事とは関係のない企業で5年くらい働いとったんですよ。でもやっぱり、小さい頃から見てきたのもあって兄弟でやりたいなと思い、一番最初に兄貴に相談したんです。そしたら「一緒にやろうや。でも、俺が社長やで(笑)」って言ってくれて。「じゃあ、兄貴が社長な。俺が現場入るわ」って感じで。
アサヒ針の一番の強みは?
裕治郎さん:うちの強みは、なんといっても針の強度です。トローリング用の針を本場フロリダにも出荷しているんですけど、フロリダのお客さんがいろんなトローリング用の針を検査した結果、うちが一番強かったってことで、わざわざうちに来てくれたんですよ。それがたしか僕が高校生のときやったから、もう30年の付き合いになりますね。
雄三さん:その縁で、兄貴は3ヶ月くらいフロリダ行ってたもんな。
裕治郎さん:そうそう、野生のイグアナがめっちゃいてるんですよ(笑)。そこで出荷の手伝いなんかしたりしていましたね。
雄三さん:うちの針の強さの秘密は、焼き入れと焼き戻し。真っ赤に針を焼いて、強度を出すんです。焼きの技術は会社ごとに違っていて、どこも企業秘密なんですよ。
(雄三さんはご用事のため、ここで退席)
お客さんが見に来られることもあるとか。
裕治郎さん:そうですね、日本全国にお客さんがいてるんで、各地から来てくれますね。ここらへんはバスがないんで、それこそ加古川線で来てもらっています。北から来られる方には、谷川駅で乗り換えてもらって。南から来られる方には、加古川駅で乗り換えてもらうって感じですね。加古川線があったから、うちの針もどんどん全国へ広がっていくことができたっていうのはあるかもしれません。
ふだん加古川線を使うことはありますか?
裕治郎さん:大人になってからはあまり使わなくなりましたが、学生時代は通学時に使っていました。今は子どもと一緒に乗ることがあるくらいかな。子どもに電車の乗り方を教えておきたい意味もありますね。あ、これは初めて息子を加古川線の電車に乗せたときの写真です。ちょっと不安そうな顔してますけど(笑)。
まあ正直な話、ここらへんの人はみんな車ですね。ここらの駅って、駅周辺にはほんとに何もないんですよ。駅から少し離れた場所なら多少見どころもあるんですけど。だから、地元の人があまり使っていないのにはそういう理由もあるんじゃないかな。電車を降りた後の足がないから、どうしても車になっちゃうよねって感じです。
このままでは加古川線の存続が危ない、という話もありますが。
裕治郎さん:できれば残してほしいなと思います。小学生の頃、子どもたちだけで近所のお兄ちゃんたちと一緒に西脇市駅のほうに行ったんですよ。ちょっとした冒険みたいでいい思い出なんですけど、そういった機会もなくなってしまうかもしれないと思うと、やっぱり残してほしいなと。
電車がなくなってしまうと、子どもだけじゃなくて親の負担が大きくなるのもありますね。学校とかへの送り迎えがこれ以上増えるようになると、勤務体系を変えたり職場自体を変えたりしなきゃいけない人も多いんじゃないかな。
あとは、阪神・淡路大震災のときに加古川線が大活躍したんですよ。神戸のほうに行くのにも、大阪のほうに行くのにも加古川線を使ってぐるっと迂回しなきゃならんかったんです。そういう有事に交通手段がないと困る。それも残したい理由のひとつですね。
加古川線は、地域の人々の暮らしを支える大切な交通手段。そして、伝統の手仕事を世界へ広げ、未来へつないでいく役割も果たしているということを、この取材を通して改めて感じました。
商売にも、生活にも欠かせま線。
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有限会社アサヒ針
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